“音が聞こえない”ということ – 映画・ドラマが映し出す「ろう」の世界:聲の形、silent、星降る夜に
近年、映画やドラマで「ろう」をテーマにした作品が増えてきました。聞こえない世界と向き合い、もがきながらも懸命に生きる登場人物たちの姿は、私たちに多くの感動と共感を呼び起こします。
今回は、映画「聲の形」、ドラマ「silent」「星降る夜に」の3作品を通して、「ろう」というテーマがどのように描かれているのか、それぞれの魅力や共通点、そして作品を通して私たちが何を考えさせられるのかを探っていきたいと思います。
青春時代の傷と再生、そして「聲」を探す旅 – 映画「聲の形」
2016年に公開された映画「聲の形」は、聴覚障害を持つ少女・硝子と、彼女をいじめていた過去を持つ少年・将也の複雑な関係性を軸に、思春期の葛藤や心の成長を描いた作品です。
繊細な描写で表現される「聞こえない」苦悩
本作で特筆すべきは、硝子の心情描写の繊細さです。手話で話しかけられても、うまく聞き取れずに戸惑う姿、悪意のない言葉に傷ついてしまう姿、それでも懸命に周りの世界と繋がろうとする姿は、私たちに「聞こえない」ことの苦悩をリアルに感じさせます。
一方、将也もまた、過去の罪悪感に苦しみ、周囲とのコミュニケーションに悩む等身大の少年として描かれています。硝子と関わる中で、自分の弱さと向き合い、真の「聲」を見つけ出そうとする姿は、多くの人の心を打ちました。
美しい映像と音楽が織りなす感動の物語
「聲の形」の魅力は、繊細なストーリーテリングだけではありません。美しい背景描写や心情を表現する音楽、そして京都アニメーションならではの丁寧な作画が、物語に更なる深みを与えています。京都アニメーションといえば私の大好きなアニメ制作会社の一つです。特にヴァイオレットエヴァガーデンというアニメオススメです!
聲の形のクライマックスシーンで流れるaikoの主題歌「恋をしたのは」は、登場人物たちの心の叫びと重なり合い、多くの人の涙を誘いました。
冬の静寂が彩る、切なくも温かいラブストーリー – ドラマ「silent」
2022年に放送され、社会現象的なブームを巻き起こしたドラマ「silent」。高校時代に恋に落ちた紬と想は、想が聴力を失ったことをきっかけに別れてしまいます。8年後、偶然の再会を果たした2人でしたが、そこには様々な葛藤と切ない想いが交錯していました。
手話という「言語」を通して深まる絆
「silent」では、手話が単なるコミュニケーションツールとしてではなく、登場人物たちの心情を表現する重要な要素として描かれています。
紬は、想と再び心を通わせるために一生懸命手話を学び、想は、自分の気持ちを理解しようと努力する紬の姿に心を動かされていきます。不自由さを感じながらも、手話を通して互いの気持ちを理解しようとする姿は、言葉を超えた心の繋がりを感じさせました。
繊細な演出と脚本が光る、リアリティ溢れる世界観
「silent」の最大の魅力は、登場人物たちの心情を丁寧に描いた脚本と、繊細な演出にあります。セリフだけでなく、表情や視線、間など、細部にまでこだわった演出は、登場人物たちの心の機微を見事に表現し、視聴者を物語の世界に引き込みました。
特に、主題歌であるOfficial髭男dismの「Subtitle」が流れるシーンは、登場人物たちの心情とリンクし、ドラマを一層盛り上げました。
夜空の輝きが照らし出す、新たな愛と人生の物語 – ドラマ「星降る夜に」
2023年放送のドラマ「星降る夜に」は、孤独を抱える産婦人科医・雪宮鈴と、生まれつき聴覚を失っている遺品整理士・柊一星が出会い、互いの孤独を埋め合うように惹かれあっていくラブストーリーです。
“聞こえない”ことを特別視しないフラットな視線
「星降る夜に」では、「聞こえない」ことを特別視せず、あくまで一星の個性として描いている点が特徴です。
一星は手話でコミュニケーションをとるだけでなく、筆談やスマホのメモ機能も駆使し、周囲の人々と自然に交流します。彼を取り巻く人々もまた、偏見を持つことなく、彼を受け入れ、対等な立場で接しています。
人生の苦悩や喜びを鮮やかに描く群像劇
「星降る夜に」は、単なるラブストーリーではなく、登場人物それぞれが抱える悩みや葛藤、そして成長を描いた群像劇でもあります。
仕事に誇りを持つ一方で、患者との向き合い方に悩む鈴、自由に生きる一星に惹かれながらも、自分の気持ちに戸惑う深夜。登場人物たちの心の動きを丁寧に描くことで、共感を呼ぶ人間ドラマを生み出しました。
作品が投げかける「多様性」への問い
3作品に共通するのは、「ろう」に対する偏見や差別をなくし、「多様性」を受け入れることの大切さを訴えかけている点です。
聞こえない世界と聞こえる世界の狭間で葛藤する登場人物たちの姿を通して、私たちは「相手を理解すること」「寄り添うこと」の大切さを改めて認識させられます。
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